日本経済新聞
2012年(平成24年)2月22目(水曜日)
35面/神奈川版

□□□ホップ・ステップ□口□

「市民のオケ」を率いて40年
毎週4回リハ、衰えぬ情熱

横響音楽監督・常任指揮者
甲賀一宏さん

 アマチュアオーケストラ、横浜交響楽団(横響)が
創設80年を迎える。同楽団で40年以上、指揮して
きたのが音楽監督で常任指揮者の甲賀一宏だ。
週4回のリハーサルはほぼ休みなしでこなす。75歳
になっても横浜で音楽文化の底上げをしたいとい
う情熱に衰えを見せない。
「音をそろえて」「もっと威張って堂々と弾いて」……。
 17日に午後7時過ぎから始まった横響のリハーサル。
3月の定期演奏会に向け、指揮台で声を張り上げ、
時にメロディーを大声で歌う。指揮棒を譜面台にたた
いてリズムを取りながら楽団員に指示を出す。
1時間以上休みを取らず、年齢をまったく感じさせない。
 プロオーケストラの指揮者は1,2回のリハで本番に
入る場合が多い。楽団員はプロなので指揮者は演
奏の細かいニュアンスを伝えるだけで済む。
 だがアマオケは団員の技量差が大きいうえ、勤め
先の都合でリハを遅刻したり、欠席したりする団員
も多い。
 横響はオーケストラと合唱団の練習を週4日実施。
ほぼ無欠席で指揮をしてきた。
 「練習に毎回参加できない人にも合奏の楽しさを
感じてもらうため、指揮者が毎回参加して練習の遅
れを補えるようにする」。アマオケ指揮者の役割を
こう語る。アマは客とともに演奏者も感動しなくては
いけないというのが持論だ。理事長の小磯智功は
「演奏者一人一人の顔がわかっているので、練習
内容を柔軟に変えてくれる」と評する。

 横響は1932年12月に創設した。創設者の小船
幸次郎に師事した甲賀は71年に自作の曲で横響
を指揮。
82年の小船死去後、年8回の定期演奏会の指揮は
甲賀がほぼ一手に担ってきた。
 苦難もあった。教師時代は学校での部活動の指導
や会議が終わり次第、横響にかけつけ、深夜に帰宅
して食事を取る日々だった。胃がんと肺炎で数カ月休
み、代役の指揮者が登板することもあった。「横響の
ための人生だ」と笑う。
 「音楽文化の底上げにはアマチュアの音楽活動が大切
だ」という小船の教えを継ぐ人が出ることを期待する。
「80年の歴史を途絶えさせないのが私の務め。続ける
ことが文化になる」。

 横響は市民が気軽に演奏・鑑賞できる楽団を目指し
「市民のオルガン」を標榜してきた。
このオルガンが奏で続けられるよう、今日も指揮を執る。=敬称略

こうが・かずひろ
 横浜国立大学卒業。小船幸次カ氏に作曲と指揮を師事。
小学校や中学校の音楽教師を務めながら、作曲と指揮活動
に取り組む。作曲した歌曲や合喝曲、董謡で人賞多数。
1971年から横浜父響楽団を指輝。神奈川県大和市在住。