第661回定期演奏会 後記

3月15日(日)午後2時~

stage661

 毎年新春コンサートでは女性はカラードレス、男性はポケットチーフ等で華やかに演奏会を開くのだが、今年の新春コンサートは平日でソワレ(夕刻以降のコンサート)であったので、今回のマチネ(昼間の演奏会)で女性はカラードレス、男性は蝶タイで臨むこととした。いやあいいですねえ。もともと美女揃いの横響女性陣は更に美しく、惚れてしまいそうである。イケメン揃いの男性陣は更にジェントルマンではないですか、私に惚れてしまった女性団員も多く居たはずである。そうだ、そうに違いない。きっと、たぶん。….。しかし「トリスタンとイゾルデ」の惚れ薬はいつまでも薬効があったが、今回の惚れ薬には数時間のタイマーがついていたようだ。ウルトラマンよりは長かったがシンデレラほどにも持たなかったようである。

mytie

 私も以前使用した蝶タイを探したのであるが、引っ越しをした後どこにしまったか分からなくなってしまったのでアマゾンで新規購入した。あまり当たり前なものではつまらないので、ちょっと工夫をしてみた。当然このようなおしゃれな蝶タイをした私は女性陣の注目の的となる。皆「かわい~~」と言いながら私の方を見るのである。ところが何故か視線は私の顔ではなくその少し下の方にある。なぜだ。こんなはずじゃない。不思議だ……。
 この蝶タイの金額がいくらであったかはアマゾンで調べないで頂きたい。私の懐具合がバレてしまう。ほかにも緑や赤のカラー蝶タイや、古くなった普通のネクタイを切って作ってきたという某氏もいた。さすがにピンクの水玉模様は居なかったな。とにかく服装だけでも結構楽しめた演奏会でありました。

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調 Op.104
 チェロ独奏:伊藤七生(いとうななみ)
 伊藤さんは横浜出身、横浜市内でも積極的に音楽活動をされておられる。練習所の控室で少々お話させていただいたが、頼もしい限りであった。横響では「青少年のための音楽会」を題しており、その趣旨からも独奏者に小学生から高校生までの独奏者も多いが、経験を積まれた方にもしばしばお願いしている。練習中にアイコンタクトもとってもらえたり、アドバイスが貰えたり。こうした方に来ていただけると団員も良い勉強ができる。特にこのコンチェルトはソリストとオケの独奏との掛け合いも多くアンサンブルの難しさもあってとてもよい経験を積むことが出来たと思う。
 正直言うと途中ちょっと事故もあって、大いに反省しなければならないこともあったのだが、お客様にもそれなりにお楽しみいただけたなら幸いであります。

チェロ独奏アンコール曲
  J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調BWV1012 第6曲ジーグ(Gigue)

チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 Op.64
この曲を聞くために米軍横須賀ベースから60人近い方が聞きに来てくれた。譜面を片付けていて思ったのだが、とにかくいつもの曲に比べて管楽器の譜面が厚い。それだけ管楽器の出番が多くやりがいがあるのである。曲目雑感にも書いたがとにかくオーケストラが良く鳴る。この「良く鳴る」という表現だが、楽器演奏をしたことのある人でないとなかなか意味合いが分からないかもしれない。どの楽器でも一番低い音から高い音まで音域というものがあるのだが、どの音域でも同じように鳴るのではない。その音域によって特徴があり、違う音色がしたり違う響き方がする。また演奏できる音形というか旋律みたいなものも楽器によって得意不得意があって得意な音形なら良く鳴る。それが各楽器によく配慮されていると楽器が良く鳴り、各楽器の特徴をうまく使ってオーケストラ全体を構成する、いわゆるオーケストレーションがうまくされているとオーケストラが良く鳴る。そういう意味では今回のような曲は演奏者の立場からして気持ちよく演奏ができる。逆にオーケストレーションがあまりお上手でない有名作曲家もおられて、それが名曲でなければ演奏されることもないのだが、それでもやっぱり名曲なので演奏することとなる。たとえば前回の演奏会のシンフォニーなどはマーラーが書き直した編曲版があるほどである。だが作曲家の名誉にかけて付け加えておくがオリジナルでも十分名曲である。
 しかし演奏者が自己満足していても困る。お客様にも共に楽しんでいただけたら幸いであります。

アンコール曲
  ドヴォルザーク:スラブ舞曲第10番(第2集第2番)

話は変わるが、オペラ等では事故がしばしば起こる。部品点数の多い機械やシステムは故障の確率が高くなるのと同じように、指揮者、オケ、ソリスト、合唱、舞台装置、演出など構成する要素が多く、また演奏時間も3~4時間にもなれば事故率も高くなる。オケがミスったり、ソリストが出なかったり、大道具がなかなか出てこなかったり。そんな時は指揮者から舞台裏まで協力して必死にリカバーするのである。音楽はリアルタイムで進んでゆくものなのでそんなトラブルを乗り越えるのは指揮者が中心となりその腕の見せどころとなる。優秀なオペラ指揮者は優秀なトラブルシューターでもある。最近の記憶ではメトロポリタン・オペラでのワーグナー「ニーベルングの指環」の公演では機械装置が動作しなかったというトラブルが有ったようだ。
 「失敗学」という言葉がある。「失敗学のすすめ」なんて本もあって、その関係の書籍は多いので興味のある方は読んでみるとよかろう。べつに「失敗をしなさい」と言っているわけではなくて失敗は成功のもと、小さな失敗を恐れず、またその失敗に蓋をすることもなく、そこから学んで大きな成功に結びつけることを説いたものである。
 横響も失敗があれば反省しそこから学んでさらに前に進んでいきたいと思う。
 そんな横響をこれからもよろしくお願い致します。

 今回よりイニシャルは個人を特定され、読者に個人情報保護法違反を犯させる可能性があってはならない。また容姿的にも松坂桃李に間違えられてはいけない。という事実誤認思いあがり的な発想により、小学校3年生の時に先生が付けてくれたニックネームを使うこととする。

(M.T. あらため 「どんぐりくん」)

映画「マエストロ」出演記

このサイトのホームページ(HPとは本来サイトの入り口のページのこと)にも記載しておいたが、映画「マエストロ」に横響から5名ほどエキストラ&楽器提供でお手伝いさせていただいた、最後のクレジットにも協力「横浜交響楽団」と出ている。今回はその時のお話を少々したい。しかしあまり多くを語ると映画会社からお叱りを受けるかも知れないし、ネタバレになるので許されるであろう範囲でのお話である。「西田敏行はやはりデベソだった」とか、「松坂桃李はズラだった」とか書いたら読者には喜んでいただけるかもしれないが、残念ながら我々がお呼ばれしたのは先代のオケ解散前の1980年代の回想シーンであるからして有名な俳優、ましてや憧れの’miwa’ちゃんなんて来るはずもないのである。

そもそも映画のトラなどというものはよほどカメラが自分の方を向いているとかでなければ写っているかどうかなんてわからぬ。仮に写っていたとしても編集の段階でそのシーンがカットされれば本編には出てこないのである。したがって写っているなんてことは期待せずに見に行ってきた。案の定何度も撮り直しをした客席を10回位行ったり来たりしたシーンはカットされていたのだが、その他のシーンではM氏と私はしっかり写っていた。映画が始まって1時間過ぎの昔の回想シーンである。写っていたのはオーケストラを客席からヒキで撮った2秒ほど。その後M氏と私は選抜組居残りでステージ裏のシーンを撮って団員役で出ている。悔しいがM氏のほうがアップで写っていたのだが、私のほうが目立っていたわい!楽器は!。それと後日観客役で見ていたNさんは西田敏行の股間の脇辺りに写っていたらしい。

会場に着いて準備をしていて最初に呆れたのは指揮者天童(西田敏行)の若いころの役の俳優がセリフをひたすら連呼反復練習していたのだが、その言葉がほとんど放送禁止用語に近いシモネタワードであって、それをひたすら繰り返し繰り返し連呼しているのである。あれを街中でやっていたら明らかに怪しいおじさんである。さすがに映画本編では西田敏行が一回だけ言っていたくらいで、その若い方の役者の連呼反復練習は残念ながら徒労に帰したのである。どんなワードであったかは私の、ひいては横響の品位を落とすことになりかねないのでここには書かないこととしよう。原作の漫画を読んで頂くか映画を見て頂ければわかるかもしれん。ちなみに「ヤンパンパン、イボジダヨ、キレジダヨ」ではない。

しかし「のだめカンタービレ」を見た時にも感心したのだが、再結成後の有名俳優連中は楽器をよく練習している。もちろん音は吹き替えだがちゃんと弾いているし吹いているし叩いている。リードの舐め方なんかもなかなかなものであるし、ティンパニのマレットの動きなどは経験者ではないかと思わせる。俳優のみならずスタッフもオーケストラのことをよく勉強していて楽器のこともよくわかっていた。1980年代の時代考証もかなりこだわっていて、服装とかその頃にそのような楽器やケースが有ったか等よくチェックされていた。

そもそも横響にトラ出演の話が何故来たかということだが、ティンパニが借りたい&トラ応募が無いので出てほしい、みたいな話で楽器付きで出演と相成ったわけである。もちろん今回のトラにギャラなどは無いが、居残り後のロケ弁はなかなかうまかった。いつも食べてるローソンのノリ弁等よりはるかに良い。回想シーンで写っていたティンパニは横響の楽器である。悔しいが私より楽器のほうが目立っている。つまり楽器付きの「私」ではなくて、私付きの「楽器」だったのである。

閑話休題。これを書いているときはまだ公開中であるようなので、ぜひ劇場に足をお運び頂き、「ウォーリーを探せ」に挑戦していただきたい。といっても私達の顔を知らなければ分からないであろうから、ここはぜひ横響の演奏会にも何度も何度も何度も来て頂きイケメン&美女を目に焼き付けていただくしかない。と結局演奏会に来てね、という営業活動でありました。

このトラ出演以来私は「横響の松坂桃李」と自称しているのだが、残念ながら美的センスのない団員どもからは一笑に付されている。ちなみにこの文の最後のイニシャルは Matsuzaka Tori の略ではない。

(M.T.)