映画「マエストロ」出演記

このサイトのホームページ(HPとは本来サイトの入り口のページのこと)にも記載しておいたが、映画「マエストロ」に横響から5名ほどエキストラ&楽器提供でお手伝いさせていただいた、最後のクレジットにも協力「横浜交響楽団」と出ている。今回はその時のお話を少々したい。しかしあまり多くを語ると映画会社からお叱りを受けるかも知れないし、ネタバレになるので許されるであろう範囲でのお話である。「西田敏行はやはりデベソだった」とか、「松坂桃李はズラだった」とか書いたら読者には喜んでいただけるかもしれないが、残念ながら我々がお呼ばれしたのは先代のオケ解散前の1980年代の回想シーンであるからして有名な俳優、ましてや憧れの’miwa’ちゃんなんて来るはずもないのである。

そもそも映画のトラなどというものはよほどカメラが自分の方を向いているとかでなければ写っているかどうかなんてわからぬ。仮に写っていたとしても編集の段階でそのシーンがカットされれば本編には出てこないのである。したがって写っているなんてことは期待せずに見に行ってきた。案の定何度も撮り直しをした客席を10回位行ったり来たりしたシーンはカットされていたのだが、その他のシーンではM氏と私はしっかり写っていた。映画が始まって1時間過ぎの昔の回想シーンである。写っていたのはオーケストラを客席からヒキで撮った2秒ほど。その後M氏と私は選抜組居残りでステージ裏のシーンを撮って団員役で出ている。悔しいがM氏のほうがアップで写っていたのだが、私のほうが目立っていたわい!楽器は!。それと後日観客役で見ていたNさんは西田敏行の股間の脇辺りに写っていたらしい。

会場に着いて準備をしていて最初に呆れたのは指揮者天童(西田敏行)の若いころの役の俳優がセリフをひたすら連呼反復練習していたのだが、その言葉がほとんど放送禁止用語に近いシモネタワードであって、それをひたすら繰り返し繰り返し連呼しているのである。あれを街中でやっていたら明らかに怪しいおじさんである。さすがに映画本編では西田敏行が一回だけ言っていたくらいで、その若い方の役者の連呼反復練習は残念ながら徒労に帰したのである。どんなワードであったかは私の、ひいては横響の品位を落とすことになりかねないのでここには書かないこととしよう。原作の漫画を読んで頂くか映画を見て頂ければわかるかもしれん。ちなみに「ヤンパンパン、イボジダヨ、キレジダヨ」ではない。

しかし「のだめカンタービレ」を見た時にも感心したのだが、再結成後の有名俳優連中は楽器をよく練習している。もちろん音は吹き替えだがちゃんと弾いているし吹いているし叩いている。リードの舐め方なんかもなかなかなものであるし、ティンパニのマレットの動きなどは経験者ではないかと思わせる。俳優のみならずスタッフもオーケストラのことをよく勉強していて楽器のこともよくわかっていた。1980年代の時代考証もかなりこだわっていて、服装とかその頃にそのような楽器やケースが有ったか等よくチェックされていた。

そもそも横響にトラ出演の話が何故来たかということだが、ティンパニが借りたい&トラ応募が無いので出てほしい、みたいな話で楽器付きで出演と相成ったわけである。もちろん今回のトラにギャラなどは無いが、居残り後のロケ弁はなかなかうまかった。いつも食べてるローソンのノリ弁等よりはるかに良い。回想シーンで写っていたティンパニは横響の楽器である。悔しいが私より楽器のほうが目立っている。つまり楽器付きの「私」ではなくて、私付きの「楽器」だったのである。

閑話休題。これを書いているときはまだ公開中であるようなので、ぜひ劇場に足をお運び頂き、「ウォーリーを探せ」に挑戦していただきたい。といっても私達の顔を知らなければ分からないであろうから、ここはぜひ横響の演奏会にも何度も何度も何度も来て頂きイケメン&美女を目に焼き付けていただくしかない。と結局演奏会に来てね、という営業活動でありました。

このトラ出演以来私は「横響の松坂桃李」と自称しているのだが、残念ながら美的センスのない団員どもからは一笑に付されている。ちなみにこの文の最後のイニシャルは Matsuzaka Tori の略ではない。

(M.T.)

第661回定期演奏会 曲目雑感

3月15日(日)午後2時~  神奈川県立音楽堂
今回は非常に良く知られた名曲2曲です。

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調
ドヴォルザークの代表曲の一つ。チェロ協奏曲のみならず他の協奏曲を含めての名曲中の名曲と言ってよいでしょう。ブラームスがこの曲の初演を聞いて、「こんなチェロ協奏曲が書けるのを知っていたら私が書いたものを」と言って賞賛したほどです。
 第 一楽章のチェロによる第二主題は私が最も好きな部分です。このテーマは故郷に思いをはせるように美しく始まり、後半ではチェロが咽び泣くように歌います。 私がある日夜遅く残業が終わって自宅近くの駅の階段を登っていると、誰かがこのテーマを口笛で吹いていました。「ああこの人もこのテーマが好きなんだな」 と思いながら一日の終りにほのぼのとした気持ちで家路につきました。

チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調
チャ イコフスキーの交響曲は4番、5番、6番「悲愴」が特に有名です。4番ほど脳天気でもなく、6番ほど憂鬱でもない。美しい旋律有り力強くも有り、チャイコ フスキーの傑作と言ってよいでしょう。とにかくオーケストレーションがうまく各々の楽器が良く鳴りそしてオーケストラが良く鳴ります。
 ところで「オーケストラの少女」という映画をご存知でしょうか。ストコフスキー、フィラデルフィア管弦楽団が出演した1937年のモノクロの名画ですが、 たくさんの名曲が出てきます。この曲を聴くとこの映画を思い出すという名曲はたくさんあるのですが、この第5番もその一つです。第四楽章最後に Prestoになり第518小節から始まるテーマを聞くとこの映画のトーキーになりたての古臭い音を思い出し、オーバーアクションのティンパニを思い出します。
 私の両親は音楽の素養などたいして無い人達でしたが、音楽を始めるきっかけを作ってくれました。その母が「昔オーケストラの少女という映画が有ってね。と ても良かったわよ。それから音楽が好きなったわ」と話してくれました。それが今横響に在籍する自分がある一つも理由なのもしれません。
私を音楽の世界に導いてくれた亡き母に感謝。

(M.T)